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更生緊急保護

1.概念

【CASE】 Aは同棲していた恋人Vに暴力をふるって逮捕された。Aは恋人Vとは関係を解消したうえで釈放された。Aは悪さを積み重ねてきたので,両親や兄弟姉妹から同居を断られた。

更生緊急保護とは,保護観察所長が,更生に要する保護や支援を受けられない一定の者に対して取る緊急の保護措置です(更生保護法85条1項)。

 

身体拘束を解かれた者には,しばしば帰る場所がないとか,当座の生活費がないといったことが起きます。こういった問題を抱えたままでは,もう一度恋人Vに連絡を取ろうとしたり,食べ物や金目の物を万引きするなど再犯の危険性が増えます。そうして,社会復帰がますます困難になる悪循環に入ってゆくのです。そこで,社会復帰の準備を緊急に整えるものとして更生緊急保護が設けられました。

 

2.対象者

更生緊急保護の対象となる者は,次の者のうち身体拘束を解かれた者です。身体拘束じたいがされなかった者は対象になりません。

  1. 1.拘禁刑又は拘留の刑の執行を終わった者
  2. 2.拘禁刑又は拘留の刑の執行の免除を得た者
  3. 3.拘禁刑につき刑の全部の執行猶予の言渡しを受け,その裁判が確定するまでの者
  4. 4.前号に掲げる者のほか,拘禁刑につき刑の全部の執行猶予の言渡しを受け保護観察に付されなかった者
  5. 5.拘禁刑につき刑の一部の執行猶予の言渡しを受け,その猶予の期間中保護観察に付されなかった者であって,その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わったもの
  6. 6.検察官が直ちに訴追を必要としないと認めた者
  7. 7.罰金又は科料の言渡しを受けた者
  8. 8.労役場から出場し,又は仮出場を許された者
  9. 9.少年院から退院し,又は仮退院を許された者(保護観察に付されている者を除く。)

 

3.要件

更生緊急保護は,次の要件を充たすときに実施されます。

❶ 親族からの援助や公共機関から改善更生に必要な保護を受けられない,またはこれらの援助や保護のみによっては改善更生できないと認められること(更生保護法85条1項柱書)

❷本人の意思に反しないこと(更生保護法85条4項本文)

弁護人が関わる範囲での実務としては,処分ないし判決前に担当検察官と調整しておいて,1st身体拘束から解放された当日中に「保護カード」を発行してもらったうえで,2nd 必ず保護観察所に直行するようにしています*。保護観察官は,この保護カードの記載から要件を審査しています。

 

*検察官は,国選弁護人に対し,”弁護人が保護観察所まで同行してください”と依頼します。当事務所では,可能な限り,同行するようにしていますが,国選弁護人の職務というより,無償のサービスとして行うものと理解しています。

 

3.実施内容

⑴ 実施の水準

更生緊急保護は,改善更生のために必要な限度で行われます(更生保護法85条2項)。更生緊急保護は,生活保護のような生活保障の制度ではありません。再犯防止という刑事政策の制度です。本人が善良な社会の一員として自立するのに相当な範囲でしか保護されません。すべてを用意してもらえる,というわけではないのです。

⑵ 実施の具体的内容

宿泊場所の供与

 Ex.更生保護施設や自立準備ホームへの委託により宿泊場所を紹介

食事の給与

 Ex.保護観察所で食費として現金支給,宿泊場所での食事の提供(委託)

宿泊場所への帰住旅費の給与

 Ex.帰住先への交通費を現金支給

就業または生活援助のための金品の給与

 Ex.交通費,衣類,器具その他物品を支給

住居等の援助

 Ex.賃貸の事務の援助,家族への連絡

医療・療養の援助

 Ex.医療機関の紹介,通院・服薬指導

就労の援助

 Ex.支援講座,ハローワークや協力雇用主への働きかけ

教養訓練の援助

 Ex.教養講座(パソコン教室),地域清掃活動などの社会奉仕活動

社会生活適応に必要な生活指導

 Ex.薬物依存回復プログラム,DARCによる酒害・薬害教育

生活環境の改善・調整

 Ex.家族その他の関係人に協力要請,生活保護あっせ

その他健全な社会生活を営むために必要な助言その他の措置

 Ex.金銭管理の指導,多重債務で法テラス紹介

 

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弁護士 井上 界
園田法律事務所 代表弁護士井上 界

弁護士として大切にしていることは寛容さ。人の弱さを受け止められる弁護士でありたいと思っています。小さな悩みもお気軽にご相談ください。

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