冤罪や政治的な事件でしばしばニュースに上がる検察審査会。私たち弁護士でさえもめったに関わることがありません。今回はそんな検察審査会について,概略を説明します。なお,【検察審査会の審査員に選出された人】は,裁判所の検察審査会制度Q&Aが日当や質問票の書き方を含めた事務的なことまで詳細に記載されているので,そちらをご確認ください。
検察審査会とは,検察官の不起訴処分が民意からみて適正かどうかを審査する機関です。
日本では,犯罪を犯した疑いのある人を起訴(公訴提起)するかどうかは検察官の判断にゆだねられています(起訴裁量主義)。しかし,検察官の判断が健全な市民感覚から乖離していることもあります。そこで,検察官の判断に民意を反映させて適正なものとするために検察審査会が設けられました(検審1条)。
検察審査会は,地方裁判所の所在地と支部の所在地に設置されます(検審1条)。兵庫県には次の検察審査会が設置されています。
庁名 | 電話番号 | 住所 |
神戸第一検察審査会 | 078-367-1059 | 神戸市中央区橘通2-2-1 |
神戸第二検察審査会 | ||
伊丹検察審査会 | 072-779-3071 | 伊丹市千僧1-47-1 |
姫路検察審査会 | 079-223-2913 | 姫路市北条1-250 |
豊岡検察審査会 | 0796-22-2304 | 豊岡市京町12-81 |
実は,神戸地方裁判所尼崎支部には検察審査会が設置されていないのです。尼崎支部管内(尼崎市・西宮市・芦屋市)の事件は【神戸第二検察審査会】が担当しており,申立先には注意をしなければなりません。
検察審査会は,市民(*一定の要件あり)の中からくじで選ばれた11名によって構成されます(検審4条)。ただし,審査員が欠けたときなどのために補充員が11名選出される(検審18条の2)ので,おおむね22名で運営されます。審査員と補充員は6か月の任期が分かれてはじまるので,構成員が変わり続けるという少し変わった組織です。
審査の対象は,主に検察官がした不起訴処分です(検審2条1項1号)。罪とならず・嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予といった不起訴処分じたいが審査されるのであって,申立書に記載した被疑事実を審査を審査するわけではないことに注意してください。
審査の手続は,実は具体的には明らかにされていません。無罪推定であるとか証拠裁判主義であるとか,審理の原理は刑事訴訟におけるものと同じとされているものの,職業裁判官による審理ではないですし,実務的な感覚は不明です。下記の書籍が,審査員のモノローグのかたちで相当具体的に記載してくれています。貴重な文献といってよいでしょう。
長谷川純ほか著「検察審査会 ケースで学ぶ」(日本評論社・2025)
検察審査会の議決には不起訴相当・不起訴不当・起訴相当があります。
不起訴相当の議決(検審39条の5第3号)は,「検察官の不起訴処分は相当である。」という判断です。不起訴相当の議決には,同一事件の再審査の申立てができない(検審32条)。よって,申立人は不起訴相当の議決によって刑事責任の追及をあきらめざるを得ません。
不起訴不当の議決(検審39条の5第2号)は,「検察官の不起訴処分に相当でない。より詳細を捜査ないし評価した上で起訴・不起訴の処分をせよ。」という判断です。不起訴不当の議決がされたときは,検察官は,その議決を参考にして起訴・不起訴をします(検審41条2項)。それでもなお検察官が不起訴としたときは検察審査会に通知はあります(同3項)が,再審査がなされるわけではありません(検審41条の5)。よって,申立人は,2回目の不起訴処分によって刑事責任の追及をあきらめざるを得ません。
起訴相当の議決(検審39条の5第1号)は,「検察官の不起訴処分は誤っている。起訴をせよ。」という判断です。起訴相当の議決がされたときは,検察官は,3か月ないし延長期間内に,その議決を参考にして起訴・不起訴をします(検審41条1項,同3項)。それでもなお検察官が不起訴とした,または期間内に検察官から通知がなかったときは,検察審査会は,「第二段階の審査」を行います(検審41条の2)。
第二段階の審査では,起訴相当と判断する審査員が8名以上となったときは「起訴議決」が行われます(検審41条の6第1項)。8名未満のときは「起訴議決に至らなかった旨の議決」がなされます(同3項)。
起訴議決がなされたときは,裁判所は,指定弁護士を選任しなければなりません(検審41条の9)。指定弁護士は,検察官に代わり速やかに起訴及び刑事訴訟の遂行をすることになります(検審41条の10)。
次稿では,検察審査会に対する申立てを行う方向けの説明を行います。